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2008/10/15

魔球

東野 圭吾
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九回裏二死満塁、カウント2-3から武志は精神のすべてを込めて、その一球を投げた。
それはハーフスピードのストレートに見えた。
津山の顔が歪み、猛烈なスピードでバットは振りおろされた。もらった-彼はそう思ったに違いない。しかし、次の瞬間、彼の身体はバランスを失っていた。渾身の力を込めたはずのバットは、ボールをとらえることなく、その勢いで彼自身が尻餅をついたのだ。

津山は空をきったバットを信じられないという目で見た。
だがじつは、それ以上に信じられないことが起こっていた。
ボールは、北岡が構えるミットの前で土埃をたてたかと思うと、あっという間にバックネットに転がっていたのだ。               (以下省略 東野圭吾 「魔球」より)

序章の最終頁にいきなりクライマックスが待っている。甲子園の初戦、剛腕須田武志投手を擁し、奇跡的に選抜大会に出場した開陽高校が優勝候補の亜細亜学園と対戦する。8回までは、武志の好投でほぼ完璧に抑え、得点は1対0で開陽高校がリードしているものの、勝利のプレッシャーからか9回裏、味方のエラーから上記のピンチを招く。
相手打者はプロのスカウトも注目する4番打者で、得点こそ許していないものの唯一二本のヒットを許す相手・・。こんな伏線があったのだが、結局、魔球により打ち取ったように見えた直後、後逸により2得点を許し、サヨナラ負けを喫してしまう。

もし、これが推理小説じゃなくて、青春スポーツ小説なら起承転結の転のシーンで、このシーンが挿入され、爽やかなエンディングを迎えるのがセオリーだと思われるのだが、本小説では、挿話というタイトルの一見意味不明な事件が差し込まれた後で、悲劇が起こり、謎解きが始まる。

最後を読み終えるまで、武志が隠し持っていた魔球を最後の最後に投げたものの、結果として勝利に結びつかなかったのでないかと思っていました。このセンテンスは間違いではないものの、微妙なニュアンスの違いがあります。(以下はネタバレを多く含みます。)

10.gif

まず、武志は魔球は練習していたものの、全く完成を見ず、それどころか練習で一球たりとも成功していなかった。一か八か投げた魔球が奇跡的に成功したものの、結局、勝利には結びつかず、後の悲劇を招く重要な伏線になってしまいます。

肝心な魔球の正体ですが、最初、今でいうナックルボールなのではないかと思っていました。ナックルボールって、ウィキペディアで読んだら相当歴史の ある球種で、1世紀もの歴史があるのですね。ところで、肝心なナックルボールはスローボールで、ハーフスピードのボールではありません。それではパーム ボールなのかと、再びウィキペディアでパームボールを調べたら、実は投げ方は小説の中の記述にかなり近いものでした。ただし、突然落ちたところを見ると、球筋的には、パームは波動上のボールであることから、むしろフォークボールに近いイメージですね。

その球種を元社会人野球の投手から習うのですが、実際には全く修得できず、その投手自体もなぜ投げられるのかわからない奇蹟のボールです。例えるなら星飛雄馬の大リーグボール3号、投げてはいけない球なのです。

変化球を投げることが将来の野球人生にマイナスであることを十分知っている主人公が、魔球を投げようと思ったこと自体が悲劇の始まりでした。それほどインパクトのある魔球であった訳ですが、悲劇に向けて加速してしまったのではないかと思います。スポーツって必ずピークがあって、それが持続でき、致命的なケガに遭わないで現役を終わった、400勝の金田正一投手やホームラン王の王貞治選手、メジャーで現役続行中で安打数の記録を狙うイチロー選手なんか本当に世紀のスターで奇蹟の選手です。

読み終わってみるとこれは、スポーツ青春小説ではなく青春ミステリー小説な訳ですが、何というか野球に対す野球部員のそれぞれの割り切った考えとか、犠牲者になってしまった責任感の強いキャプテンとか、スポーツをめぐる人間模様もなかなか良いのです。東野圭吾さんの純粋青春スポーツ小説ぜひ読んでみたい気がします。まだまだ、未読な東野さんの小説は数十冊あることが幸せな僕です。

10月 15, 2008 書籍・雑誌 |

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